インストラクショナル・デザイン(ID)プロセスの代表的なものに、ADDIEモデルがある。分析、設計、開発、実施、評価の5つのプロセスより成り立つ。教育をデザインする際に、PDCAを回すことに近い考え方である。また、マネジメントサイクルと戦略立案や課題解決に使われる思考のフレームワークは、非常に似かよったアプローチである。ADDIEモデルによる教育の設計も、PDCAサイクルと同様で、同じようなアプローチである。 すなわち、マネジメントサイクルのPDCAを回すように、ADDIEモデルを基に教育設計をする。あるいは、課題解決のゴールと現状分析を基に次の対策を考えるように、ADDIEモデルにて教育開発を行う。
これと同様に、より複雑な教育設計には、複雑化する経営戦略立案時に用いられるような、思考のフレームワークである仮説思考と同様なアプローチで教育開発を行おうとするのが、「仮説思考に基づく戦略的教育設計(筆者が勝手に名付けたも)」である。図に示したように、PDCAのPlanやADDIEのAnalysisである分析のプロセスを、強化したものであることがわかる。
ここで、企業教育の現状を、企業経営と対比して再検証してみる。企業の経営にはおいては、経営目標を設定し、現状分析を精緻に行い、経営の予測を行い、経営戦略を立案して経営活動を行う。また、企業のマーケティングや営業では、現状分析を行い、販売計画を精緻に立案し、マーケティング・営業戦略を立案する。一方、企業の人材育成はどうなっているのであろうか。企業経営や営業と同じようなプロセスを経ているのであろうかという点が疑問点である。企業の人材育成を企業経営と同様のプロセスで行っている企業は、稀である。企業の人材育成においても、企業の経営や、マーケティング・営業と同様のプロセスにてアプローチすべきであろう。そうすることにより、効果的で、効率的な人材の育成が可能になる。
ここで示す、「仮説思考に基づく戦略的教育設計モデル」は、企業の人材育成のプロセスを、経営やマーケティング・営業のプロセスと同様の視点で捉えた、プロセスモデルである。企業経営分析から戦略立案までには、仮説を基に分析を繰り返す必要がある。例えば、より複雑化した現代の経営では、問題の抽出のプロセス一つをとっても、表在化している問題と、表在化する問題の真因の特定を行うだけでも、仮説思考を基に真因を特定していくプロセスが求められる。これと同様に、企業の人材育成にて、ヒトの現状分析を行う段階でも、表在化している問題点と、その真の原因を探し出すプロセスでは、仮説思考によるアプローチが必要になる。
教育の目標設定(前テーマの「出口の設定」)と対象者の現状把握(入口の把握)は、非常に大切である。しかし、教育対象者の現状の分析(前項の「入口の調査)は、そう簡単ではない。教育対象者の表在する問題点は明らかになるが、その真の原因を突き止めなければ本当の課題は見えてこない。本当の課題が見えてこないと、提供する教育内容は教育対象者にマッチしたものにならない。これは戦略立案の初期のプロセスに似ているということである。
表在する課題の真の原因を探る作業を行う際に、一定の仮説を立て、真因へ近づこうとする。あるところまで真因が見えてきたら、その仮説検証をしながら対策を考える。これらを繰り返しながらプロセスを進めていくのが、仮説思考に基づく戦略的教育設計である。IDプロセスモデルの基本的な考え方をとらえるのであれば、ADDIEモデルで十分である。同様にPDCAサイクルだけあればマネジマントのプロセスは容易に理解できる。しかし、現実の経営では、PDCAのPの実践段階だけをとっても、より複雑化してきている。企業の人材育成も、分析段階だけを取り出しても、そう簡単ではない。その一つの解決法として仮説思考に基づく戦略的アプローチがある。
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