企業の教育担当者の悩みの一つに、教育研修の効果を測定することがある。これは、経営層からの強い要望による。これまで、企業内人材育成は、企業内の活動において、一つの聖域としての取り扱いをされて来た。聖域の意味にも種々あろうが、人材育成には、あまり期待されてこなかったというのが本当のところかもしれない。しかし、この環境は一変した。
企業経営では、様々なCSF(Critical Success Factor)が設定され、それを測定する指標としてKPI(Key performance Indicator)を決定し、経営状況のモニタリングが行われ、企業経営の診断と、経営の妥当性の検討、経営の変革が行われる。これらは、企業の様々な部門で設定され、経営改革が行われてきた。企業の人材育成は、これまで、この範疇に属していなかった、あるいは、見逃されてきたというのが本当のところであろう。しかし、企業経営における人材育成活動が、経費としての捉え方から、投資としての捉え方への変化に伴い、あるいは、企業の人材育成が経営の主要な課題として捉えられ、企業活動の重要なファクターと捉えられるようになったことにより、投資した人材育成が、経営にどのように影響を与えているのかという、経営層の素朴な疑問の的となった。人材育成担当者は、この経営者の素朴な疑問である、「人材育成による効果は何なのか?」という質問への回答に苦慮することになる。
企業内研修効果測定をどうするのかという疑問に回答する、一つの指標として、カークパトリックが示した、研修効果測定の4つのLevelがある。Webで「研修効果測定」で検索すれば、大抵の場合、この言葉に行きつく。企業の人材育成担当者は、カークパトリックのLevel4の研修効果に行きつくことになる。すると、次の思考として、Levelをどのように測定すれば良いのだろうかという次の疑問に到達する。4つのLevelの中で、Level1と2は、何とか測定できそう。でも、Level3と4は厄介だなというのが正直な感想になる。
そこで、Level1、2を測定することにし、Level1のために研修後アンケートを準備し、Level2のために研修前のテストと研修後のテストを準備し、これらを新たにプログラムの中に組み込み実施する。結果を集計し、研修に対するアンケート結果から研修が、良かったところはどこで、修正すべき点はどこかを明らかにし研修に修正を加えていく。ここで行われる、プロセスは、教育の評価測定のプロセスに則っているので問題はないし、提供した研修の修正を行っていくという、教育効果測定の一つの目的である、形成的評価という視点からも問題はない。
でも何かおかしくないであろうか?これだけで良いのかという疑問が湧く。企業内の教育において最も重要な、ゴールの設定はどこに行ってしまったのであろうか。企業内教育では、教育目標を定め、そこに到達するために教育を行う。それを実現するための手法としてインストラクショナル・デザインが示す最初の重要なポイントは、ゴール設定(出口を決める)と、入口を調べる・入口をそろえる(入口を決める)、その間をデザインすることである。出口を決めるということは、最初に出口が明確に示されているということである。最初に出口が示されているのであれば、そこに至ったか、至らなかったかを測定すれば良いことになる。例えば、教育の出口であるゴールが、何かの行動を変えることであれば、それを確認する(評価する)方法が先に作成されているということを意味している。この事例では、教育のゴールがカークパトリックのLevel3であるから、これを測定すれば良いことになる。これは、総括的評価と言われるものに近い。
教育の評価測定というと、測定手法やLevel測定にのみ焦点化されることがある。教育効果の測定の本質をもう少し検討していく必要があるのではなかろうか。この疑問への解として、形成的評価、総括的評価、インストラクショナル・デザイン、教育評価研究というキーワードで次回に検討したい。
0 件のコメント:
コメントを投稿