2012年3月29日木曜日

教えない教育 in まなばナイト




















第2回 まなばナイト」で、「教えない教育」というテーマで出講しました。
レポートはここにあります。
大学教育事例として、BBT大学 学部事務局長の宇野 令一郎さんが「Output重視 教えないオンライン大学の取り組み」について発表され、小職は、「企業教育(特に新入社員教育)でいかに講義を払拭したか」というテーマでお話しました。

内容は、前々回のテーマ「ある企業の人材育成の現場での素朴な疑問」に対する、「解」について触れた内容になりました。

学習目標を考え、学習者が自ら考え行動できるようになるというゴールを設定し、学習対象者の新入社員の現状を分析し、そのギャプを埋めるための学習デザインを考えると、学習者自身が学習目標を設定し、自ら学ぶ学習環境の提供が良いということになったということです。

対象となった企業の新入社員は6か月近くの研修期間で、非常に多くの専門知識の習得をし、知識を基にして、顧客と良好なコミュニケーションができ、ソリューション営業ができるようにならなければなりません。これが、学習者のゴールになります。新入社員が6か月でこのゴールに到達するにはどんな学習環境が良いのかを設計した結果が、「教えない教育」という環境の設定だったということです。

教えないのが必ずしも良いのではなく、教えたほうが効果的で効率的な場合もあるが、反対に教えないほうが、効果的で効率的な場合もあるという提案でした。
出来上がった学習環境は、講師がレクチャーするのではなく、相互教授などの学習者間の教授等を取り入れた環境を提供するというものです。

2012年3月26日月曜日

「教育効果測定の実践 企業の実例をひも解く」 が出版されました​

5か月ぶりブログです。

「教育効果測定の実践 企業の実例をひも解く」 が出版されました。共著ですが、以前に関わった企業教育を基に、教育効果測定という視点で記載しています。
題名は、教育効果測定という大上段に構えたものになっています。しかし、効果の測定指標や方法は、ゴール設定時に決まっているものであり、測定するのは当たり前という考えかたに基づいて記載しました。
また、本事例は、HPT(Human performance technology)の事例をかいつまんで記載したものになっています。
興味にある方は、是非度一読いただき、忌憚ないご意見を頂戴できれば幸いです。直接メールをお送りいただければ、お返事させていただきます。

2011年11月2日水曜日

ある企業の人材育成の現場での素朴な疑問

久しぶりのブログで、他のサイトに掲載依頼があり書いたものです。物語にしようかな?!?


私が企業の教育現場に異動になったのは、20027月であった。社内プロジェクトを一方に抱え、営業部員(製薬企業の営業で、MRと呼ばれる)への知識や営業スキルの教育研修を担うことになった。

最初に驚いたのは、新入社員教育の現場を見たときであった。インストラクターは、PPTを用いて、一所懸命講義をしていた。後ろで見ていた私は、違和感を覚えた。新入社員の2/3は、板書されたものをノートに書きとっていた。残りの1/3は、ボーとしているか、内職をしているか、眠そうにしていた。これは、このインストラクターであるからなのだろうと思い、別の日に別のインストラクターの講義を見学した。そこでは、唖然! 緑色の黒板?に向かって、一所懸命講義をしていた。

教室から戻る、インストラクターは満足感一杯で机に戻る。
彼に、今日の講義はどうだったのと聞くと、
「まだ、何人かは眠そうにしています。気合が足りないんですよ。」と言い放った。
私は心の中で、「そうかな?あなたの講義が面白くないのでしょう?」とつぶやく。

そんなやり取りがあって、少しの時間がたったある日に、教室から戻ったインストラクターが怒っていた。その理由は、
「ある新入社員が、今日出題されたテスト問題は、まだ講義を聞いていないところが出題されたと抗議をしてきた。」という。
私は心の中で、
「そうだろうな、講義をしているのだから、そういわれても当然だよな。」
「でも、そんなMRを現場では求めていないと思うけどな?」と。
インストラクターは続けて、
「講義を聞いていないところが出されて文句を言われる筋合いはない。」
「彼らは研修終了後に現場に出て、MRとして活動する。MRが教えてもらっていないからできないとは言っていられない。彼らは、自身で考え、自身で調べて、顧客とのやり取りをしていくのが仕事だ。」というのであった。
私は、心の中でつぶやいた。
「えっ!あなたも現場がどんなMRを求めているかは、分かっているのか!」
「でも、あなたは、新入社員が自分で考えて行動するような講義をしていないじゃないか!」と。
インストラクターが望む新入社員像と、彼らが行っている新入社員研修には一貫性がないと思えた瞬間であった。そして、少しだけ安心した。なぜなら、インストラクター自身が現場のMRに求めることを理解していないわけではないことが分かったからであった。

そもそも、講義をしても、聞いていない人は聞いていないし、聞いている人も学習していると思えないなという疑問が沸々と湧いてきた。相当前に、私がMRであった頃に研修に参加した時に、今日の学習すべき内容が提示され、勝手に読んで、分かればそれで終わりであった。分からないところがあればそこだけ質問して疑問を解決すれば、本日の学習を終了していた。残った時間は内職をしていたなという記憶がよみがえった。講義される声が耳障りでなければ許せるが、耳障りな場合は内職すらできない苦痛な時間であったことを思い出してしまったのである(目に浮かぶ!!)。

あの頃と、今と何も変わっていないのだと思うと、今の新入社員も可哀そうだなと思えたし、何より、彼らの学習のためにはなっていないと思えた。また、現場が望む新入社員に育成するような方法に変えようと考えた。
そこで、私はつぶやいた、
「新入社員の研修では、一切講義させない!!」と。

2011年6月19日日曜日

Party Stream for Japan 18 June 2011

Party Stream for Japan に参加してきました。
おもしろかったです!!!

NPO法人カタリバ 今村久美氏
・ハタチ基金の設立は、ナナメの関係で支える「学びと自立」を目指したもの。
・現地の自立を支援するモデルとして、女川で立ち上げる。
・支援には、支援にならない支援がある。
・他律、自立、支援をどう考えるか?ということを考えさせられる。


Tokyo Art BeatNPO) 田原新司郎氏 佐々木朋美氏
・東京近郊にアートスペースが800か所ある
・今震災に対して一生懸命活動しているアーティストとして以下の3名を紹介。
1.渋谷駅の岡本太郎の壁画に、原発の絵が追加⇒ChimPomというチームが行った
2.Share FUKUSHIMAというイベント
3.未来美術家・遠藤一郎(車で生活しているらしい)
・注目のトレンドとして、商取引の多様化(クラウドファンディング、電子ポイント)と個人活動の多様化があり、これは、個人とアートの関わりと、街とアートの関わりに変化をもたらす。
Artと人間の心の関係を再考する時期であると感じた。


日本科学未来館 池辺靖氏
SPEEDI:放射能の測定機能(原子力安全技術センター)の問題点は、情報を持っているヒトは使い方を知らないことで、情報を受け取る側は、その解釈の仕方をしらないことである。
・福島第1原発事故の時系列
3/15読売新聞が機能不全を指摘⇒センターはやっている⇒文科省に提出している
3/22USA空軍の測定結果が発表
3/23SPEEDIの結果が公開される=USA空軍と結果と一致
5/2細野さんがSPEEDIは欠陥ソフト
5/3SPEEDI結果が毎日発表される
・情報は誰のものか?という問いに対し、情報は市民のものであり、正しい情報を明らかにすべきである。
・情報源として、中央信頼モデルと市民信頼モデルがある。どちらを重視すべきであるのかという問題提起。
☆中央信頼モデルと市民信頼モデルのPros&Consを十分検討する必要がりそうと感じた。


慶應義塾大学 高橋俊介氏  緊急事態における組織の意思決定
・意思決定の大原則は、情報、判断基準、権限であり、これらを重なるようにしなければならない。
・福島第1原発での意思決定
東電吉田所長は情報と技術を持っていたが、権限はなかった
本店は、技術的判断基準は持っていなかったが、情報が限られていた
本店での意思決定システムが不明確であった
・大阪地検の村木元局長事件
立て序列主義の決済制度のなかで、高検検事長の「係長の単独犯のわけがない」の一言で、現場にプレッシャーがかかると、損害回避志向(現状維持)が生じる。これが、改竄の原因である。
Global石油メジャーは、石油プラントの廃棄判断は現場の主任技術師がもつ。
・意思決定プロセスの日本と欧米の違いを生む根本的な思想の違いは、欧米では事故発生が前提でリスクを思考するが、日本では、事故は起こることがないとうのが前提であることである。
☆意思決定に問題があることは、IMFも指摘した。日本企業の意思は、責任の所在を明らかにしないところが悪いところであり、これまでの企業を支えてきた良い仕組みでもあったよなと思うが、問題発生時には確かに弱い。
☆これからの企業の意思決定は、どうすべきかを再検討する時であるかも。


同志社女子大学 上田信行氏 可能性の教育学
・可能性を引き出すヒントは、身体にありそうだ。
ReflectionからPerceptionへの変換が必要になるぞ・・・。
・みんなで、身体を動かして、歌を歌って、・・・。
☆その神髄は、著書:プレイフル・シンキングを読むとわかると思います。
 

MOTIVATION  経団連ホール 2011年6月18日 東京未来大学主催

MOTIVATIONをテーマにした公開セミナーが経団連ホールで、618日に、東京未来大学主催で開催された。

prof.市川伸一 東京大学 
内的動機づけと外的動機づけの研究の歴史を振り返りながら、両者を比較検討。モチベーションが高まるというのは、なりたい自己(Goal)となれる自己(自己効力)の拡大である。
Key Word:
・学習動機の2要因性モデル 
・デシのソマパズル:ロチェスター大学大学院のエドワード・デシ教授たちが、2000年に「自己決定理論」を発表し、意欲と自律性の関係を明確にした。

Prof.金井壽宏 神戸大学
モチベーションは、不安と展望を持つとき、緊張と希望を持つときに高まるということを、キャリア論になぞらえて指摘。Self-regulated            motivation
Key Word
・サイガニック効果 
Daniel Gilbert  Stumbling on Happiness is a non-fiction book

Prof.大坊郁夫 大阪大学
Well beingには個人のWellbeing 社会のWellbeingが存在し、これをCommunicationがつなぐことになる。Communicationが社会と個人を幸福にする鍵である。

Key Word
Well beingを磨くには、自己把握、基礎力、対処力、調整力が必用で、これらがCommunicationを向上する
Well beingの概念には、HEDONIC(快)アプローチ EUDAIMONIC(善・福)アプローチがある。
Seligman 2002 幸福の3タイプ;幸福感を「H=S+C+V」の公式で説明する。Hは持続する幸福のレベル(enduring level of happiness)、Sは設定範囲(set range)、Cは生活環境(circumstances of your life)、Vは自発的にコントロールできる要因(factors under your voluntary control)を表している。


小笹芳央 株式会社リンクアンドモチベーション
退席したため、レポートなし。
別の方から情報が入れば、再掲載。

2011年6月4日土曜日

企業研修 研修(教育)効果測定の概観と疑問?

 企業の教育担当者の悩みの一つに、教育研修の効果を測定することがある。これは、経営層からの強い要望による。これまで、企業内人材育成は、企業内の活動において、一つの聖域としての取り扱いをされて来た。聖域の意味にも種々あろうが、人材育成には、あまり期待されてこなかったというのが本当のところかもしれない。しかし、この環境は一変した。

企業経営では、様々なCSFCritical Success Factor)が設定され、それを測定する指標としてKPIKey performance Indicator)を決定し、経営状況のモニタリングが行われ、企業経営の診断と、経営の妥当性の検討、経営の変革が行われる。これらは、企業の様々な部門で設定され、経営改革が行われてきた。企業の人材育成は、これまで、この範疇に属していなかった、あるいは、見逃されてきたというのが本当のところであろう。しかし、企業経営における人材育成活動が、経費としての捉え方から、投資としての捉え方への変化に伴い、あるいは、企業の人材育成が経営の主要な課題として捉えられ、企業活動の重要なファクターと捉えられるようになったことにより、投資した人材育成が、経営にどのように影響を与えているのかという、経営層の素朴な疑問の的となった。人材育成担当者は、この経営者の素朴な疑問である、「人材育成による効果は何なのか?」という質問への回答に苦慮することになる。

 企業内研修効果測定をどうするのかという疑問に回答する、一つの指標として、カークパトリックが示した、研修効果測定の4つのLevelがある。Webで「研修効果測定」で検索すれば、大抵の場合、この言葉に行きつく。企業の人材育成担当者は、カークパトリックのLevel4の研修効果に行きつくことになる。すると、次の思考として、Levelをどのように測定すれば良いのだろうかという次の疑問に到達する。4つのLevelの中で、Level1と2は、何とか測定できそう。でも、Level3と4は厄介だなというのが正直な感想になる。

 そこで、Level1、2を測定することにし、Level1のために研修後アンケートを準備し、Level2のために研修前のテストと研修後のテストを準備し、これらを新たにプログラムの中に組み込み実施する。結果を集計し、研修に対するアンケート結果から研修が、良かったところはどこで、修正すべき点はどこかを明らかにし研修に修正を加えていく。ここで行われる、プロセスは、教育の評価測定のプロセスに則っているので問題はないし、提供した研修の修正を行っていくという、教育効果測定の一つの目的である、形成的評価という視点からも問題はない。

 でも何かおかしくないであろうか?これだけで良いのかという疑問が湧く。企業内の教育において最も重要な、ゴールの設定はどこに行ってしまったのであろうか。企業内教育では、教育目標を定め、そこに到達するために教育を行う。それを実現するための手法としてインストラクショナル・デザインが示す最初の重要なポイントは、ゴール設定(出口を決める)と、入口を調べる・入口をそろえる(入口を決める)、その間をデザインすることである。出口を決めるということは、最初に出口が明確に示されているということである。最初に出口が示されているのであれば、そこに至ったか、至らなかったかを測定すれば良いことになる。例えば、教育の出口であるゴールが、何かの行動を変えることであれば、それを確認する(評価する)方法が先に作成されているということを意味している。この事例では、教育のゴールがカークパトリックのLevel3であるから、これを測定すれば良いことになる。これは、総括的評価と言われるものに近い。

 教育の評価測定というと、測定手法やLevel測定にのみ焦点化されることがある。教育効果の測定の本質をもう少し検討していく必要があるのではなかろうか。この疑問への解として、形成的評価、総括的評価、インストラクショナル・デザイン、教育評価研究というキーワードで次回に検討したい。

2011年5月31日火曜日

企業 人材育成部門のポジショニングの考察

企業における人材育成部門はどんなポジショニングなのだろうか?

 企業の人材育成とは企業内でどんなポジショニングを採ってきているのであろうかという素朴な疑問を検討してみたい。これまで、企業内人材育成は、企業内の活動において、一つの聖域としての取り扱いをされて来た。聖域の意味にも種々あろうが、人材育成には、あまり期待されてこなかったというのが本当のところかもしれない。

その理由はこんなところに垣間見られる。人材育成部門に任用される人から、人材育成部門のポジショニングを検討してみると、以下のような場合に該当するのではなかろうか。
    ある職種でこれまで頑張ってきた人の定年前のポジション。(ご苦労様ポジション)
    ある職種では時代遅れで、引き取り手のいない人のための安住の地。(救いのポジションン)
    ある職種での経験を活かし少し人材育成を経験させてみて次のポジションへ異動させるようなポジション。(腰掛ポジション)
    ある職種でこれまでに目を見張るような業績を挙げ、その経験を周知させるために、その本人を任用。(やらせてみようかポジション)
    日本企業における人事(人材管理と人材開発の両方を)で、人材開発を長年やってきた人のためのポジションで、その専門的知識の有無には関係ないポジション。(なんちゃって専門家ポジション)
    人材育成に対する専門的知識を有している人のポジション。(専門家ポジション)
あなたの会社の人材育成部門のポジションはどこに入りますか?

 企業の人材育成部門は、ここに示した6つの特徴的ポジションのどこに当てはまるのが良いのであろうか。企業により、人材育成部門に対する期待感が異なることや、そもそも企業内の人材育成に専門性が必用なのかという疑問等々、様々な疑問が湧いてきそうである。ここで、企業の代表的な部門を、2つの軸、Specialty とGeneralityにて分類してみる。ここで、Specialtyとは、高度の専門知識を有することを意味し、Generalityとは特に高度のマネジメント能力を意味することにし、可能な限り極端な表現をする。


 上記に記した①から⑥までの企業の人材育成部門の例示を上図に組み込んで表示した。③と④の事例はどこにポジショニングすべきか明らかでないが、感覚で置いてみた。また、上図に記したポジショニングには多くの批判もあると思われるが、個人的な意見でありご容赦願いたい。
 
 日本企業における人材育成部門の企業におけるポジショニングは、①②あるいは、良くて③である。一方の欧米企業では、⑥の位置に存在する。USA企業における、CLOChief Learning Officer)という人材育成部門のトップは、経営層に存在している。これに比べて、日本企業でCLOを導入している企業は1社もない(1社導入したという小さな会社の案内を見たことがあるが、その後継続されているかは不明)という現実は、如実に人材育成部門へのポジショニングの違いを意味する。

今後は、新興国の企業でも、CLOを導入する企業が増えるであろう。世界の企業を取り巻く環境は大きく変化した。競争の原理は、益々、知識創造を軸にして展開されていくと言われている。そんな社会の中で、日本企業の人材育成へのポジショニングへのパラダイムシフトが必要になるのではなかろうか。10年後に、世界で勝てない日本企業が続出しないためにも。
 
 とは言え、日本には、企業人材育成の専門家を養成する機関がないという問題もある。USAには、大学院でMBAのように、インストラクショナルデザインの専門家を養成する修士課程が多数存在している。一方の日本では、熊本大学の教授システム学専攻のみが学位を認定できる唯一の機関である。しかし、驚くことはないのかもしれない。MBAも、最近国内で育成しようという機関が出てきたが、数年前まではそのような機関もなかった。

専門性が高いことへの批判もあるのか。MBAに対するニーズは、一時の盛り上がりからは多生低下したように見えるが、継続的なニーズが存在している。MBAの領域では専門性の高さは現在も求められている。一時話題になったMBAの罪についてミンツバーグが論じた本があるが、これは行き過ぎたコンサルタントへの批判であり、専門性への批判とは異なった。やはり専門性が高いことは、より高度な対策を立案できる可能性が増すのである。そのように考えると、企業人材育成部門のポジショニングも、より高い専門性を求めるようなポジションへの変化が求められる。少なくとも①②③④のポジショニングに留めるのは問題であろう。

日本における企業の人材育成部門のポジショニングが、このような位置づけになっているのは何故なのであろうか。日本企業における雇用体系と人事制度は長期雇用と年功序列で成り立ってきた。これらの体制下では、企業に入ることはすなわちファミリーになるということに近い。ファミリーというネットワークの中では、年長者が若い人を育てるという自然発生的な人材育成の仕組みが、企業内のそれぞれの組織で構築された。一子相伝的な人材育成が、日本国内のあらゆる組織内に存在し、勝手に現場で育っていく仕組みができあがっていた。子弟制度と言われる、日本企業の人材育成制度の原点である。これらを研究した有名な研究に、野中先生の知的創造理論がある。また、レイヴとウェンガーが示した正統的周辺参加という理論も、学習者があるコミュニティーに参加することにより、学習が進むということを証明した。

日本の人材育成は、現場で起こっていたのである。現在はどうなのであろうか。現場で学習が起こっているのであろうか。この問いには、中原先生の「職場学習論」に詳しい。また、株式会社富士ゼロックス総合教育研究所の坂本さんが発表した「人材開発白書2009―他者との”かかわり”が個人を成長させる」でも詳しく証明されている。(両理論と、現在の職場での学びの検証は、重要な理論と研究であり、またどこかでゆっくりと振り返りたい。)

日本での人材育成は、今でも現場で起こっている。しかし、その頻度は、昔に比べて低下していることは、すでに記載したブログにとおりである。「勝手」にという言葉が適当ではないかもしれないが、現場で現場に合ったように、「勝手」に人材育成が行われてきたが、その機会は、昔に比べて低下している。

またまた、とんでもない方向に話が進んできてしまった。ここで、話を戻すことにする。現場で学習が起こっていたという歴史は、人材育成部門のポジショニングを低下させてきた一つの要因であろう。人材育成部門は、研修を企画し実施すれば良かったのであり、研修に参加する人は、研修にリフレッシュのために参加していれば良かったのである。ゆえに、人材育成部門は、極端な表現ではあるが、誰でもよかったのかもしれない。(現在人材育成に携われている方や、過去に携われていた方には、大変失礼な表現であるが、あえて記載することにした。過去に担当していた小職自身が、このように感じていたので。)

企業を取り巻く環境、人材育成の環境は大きく異なってきている。しかし、歴史が残したこれまでの学習が進む仕組みも現存する。単に昔に戻ることは得策ではないことを、中原先生も「職場学習論」で指摘している。より効率的に、効果的に、魅力的な学習環境を提供していくには、変化する環境と、変化しない環境を十分に理解し、専門的な処置が必要になっているのではなかろうか。